映画作品映画館映画ニュース マイページ

『万引き家族』の是枝裕和監督が明かした安藤サクラの魅力「あんな泣き方をする女優を初めて見た」

2018年06月10日(日)配信

【※この記事は映画の核心に触れる内容を含みます。鑑賞前の方はご注意ください】第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した、是枝裕和監督作『万引き家族』(公開中)。カンヌ映画祭の審査委員長ケイト・ブランシェットが、なかでも手放しで絶賛した俳優が、是枝組初出演の安藤サクラだ。安藤にとっては、本作が第1子出産後初の映画出演作となった。是枝監督に単独インタビューし、安藤の魅力やキャスティング秘話について話を伺った。犯罪でしかつながれなかった“万引き家族”を演じたのは、リリー・フランキー、安藤、松岡茉優、樹木希林、子役の城桧吏と佐々木みゆの6人だ。是枝監督は「いろんな人と稀有なタイミングで出会えた現場だった」と振り返るが、特に安藤にオファーした際のエピソードが印象深い。「街で出産前の安藤さんにばったり会って、確か次の日くらいにオファーの連絡をしたと思います。信代はリリーさん演じる治の相手役。リリーさんが50歳を過ぎていたから、バランス的には40歳くらいの女優さんを想定していたので、安藤さん(現在32歳)のキャスティングは考えてなかったです。しかし、街でお会いした時『この2人ならありかもしれない』と思い、打診しました。実はその時点で安藤さんは『子どもを産んでみて、自分がどんなふうに変化するのかわからないから、受けられないかもしれません』というような話もされていましたが、僕のなかで『信代役は安藤さん』と決めていました」。祖母・初枝(樹木希林)の古い一軒家で身を寄せ合って暮らす家族5人。日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)と息子・祥太(城桧吏)は、生活のために2人でよく万引きをしている。ある日2人は、団地の廊下で凍えていた少女・ゆり(佐々木みゆ)を見つけ、家に連れて帰る。妻・信代(安藤サクラ)は呆れるも、傷や痣だらけの少女を見て彼女の境遇を察知し、そのまま彼女の面倒をみていく。【※下記より物語の核心に触れる内容を含みます】血のつながらないゆりに対して、愛情を注いでいく信代。ところがある事件がきっかけで、仲良く暮らしていた家族の時間や、信代のささやかな母としての幸せが奪い去られてしまう。安藤は出産後だったから、溢れる思いもひとしおだったのではないか。「僕もそうじゃないかと思ったけど、今回の信代役はあまりそこに引き寄せすぎてもよくないと考えていました。ただ、間違いなく彼女は一番いいタイミングであの役と出会ったのではないかと自負しています。彼女を撮っていて僕はそう感じました」。是枝監督曰く「映画の後半では、よってたかってあの家族を壊していくんです」とのこと。「正義が壊したり、善意が壊したり、悪意が壊したり、家族の1人が疑心暗鬼になって壊れていったりと、内側と外側から壊れていく。また、壊れることで成長する子どももいるというのが最後の30分、という流れです」。なかでもケイト・ブランシェットが絶賛していたのが、尋問を受けた信代が涙を流すシーンだ。溢れ出る涙を無造作に広げた指で拭う仕草、にらみつける目つきからは、信代のただならぬ悲しみや怒りがひしひしと伝わってくる。是枝監督も「おかしいでしょ。女優はああやって泣かないよね」とうなる。ここは、是枝監督独自の演出方法が功を奏したシーンでもある。是枝監督は、これまでの監督作で子役には脚本を渡さず、その都度、台詞を口頭で伝えて演出していくというアプローチ方法を取ってきた。『誰も知らない』(04) では、第57回カンヌ国際映画祭で、当時14歳の柳楽優弥に、史上最年少かつ日本人初の男優賞をもたらしたのも、この演出あってのことだ。是枝監督は、この尋問シーンに限っては、安藤や尋問する側の池脇千鶴たちにも同じような手法を取ったと明かす。「尋問されるシーンの安藤さんは、そこでなにを聞かれるのかまったく知らなかったんです。池脇さんには『次はこれを聞いてください』と、毎回僕がホワイトボードに書いた台詞を見せ、順番に言ってもらいました。安藤さんは池脇さんからどんな言葉が飛び出すのかわからないから、すごく不安なわけです」。信代はゆりを「拾った」と訴えるが、世間的に見ればその行為は“誘拐”にほかならない。「捨てたんじゃないです。誰かが捨てたのを拾ったんです」と訴える信代の言葉が胸に突き刺さる。安藤の涙も、その場で湧いてきたリアルな感情によるものだった。「普通、女優であれば、大粒の涙を見せようといったわかりやすいお芝居になるんですが、あんな泣き方をする女優を僕は初めて見ました。身も蓋もないよね(苦笑)。現場にいたみんなが『すごいものを見ちゃった』となりましたし、セカンドの助監督は『いまのシーンに立ち会えただけで、この作品に参加した意味がありました』と言って帰りました」。是枝監督は「あのシーンでの安藤さんがすごいのは、そこで“安藤サクラ”に戻るわけではなく、ちゃんと信代として座っていて、信代として泣いているところです」と指摘する。「決して素ではないことが見ていてわかり、僕は鳥肌が立ちました。安藤さんがなぜそういう演技ができるのか、僕にはわからなかったです」。安藤のポテンシャルの高さは言うまでもないが、それを引きだしたのは、そういった“是枝マジック”によるところも大きかったに違いない。「リリーさんや松岡茉優さんにも同じことをやっています。台本には書いてない台詞やシーンはいくつかありました」と言う是枝監督。台詞の変更は常にあると言われる是枝組だが、今回の即興は特にハードルが高かったのではないかと思う。だが、そのすばらしいコラボレーションが、パルムドールを呼び寄せたに違いない。“万引き家族”の幸せな日常を見ていると、彼らが世間的にバッシングを受ける存在であるにも関わらず、この家族を心から守りたいという庇護欲がふつふつと湧いてくる。だからこそ、多くの人の心を揺さぶる作品となったのではないだろうか。『万引き家族』は、いまを生きるすべての人々に観てほしい1作だ。

【Movieウォーカー for SPmode TOPへ】