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原作者の五十嵐大介を驚かせた、アニメーション映画『海獣の子供』のシーンとは?

2019年06月10日(月)配信

日本漫画家協会賞優秀賞と文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に輝いた五十嵐大介の同名コミックが、アニメーション映画『海獣の子供』(公開中)となってスクリーンに登場する。STUDIO4℃が制作を担い、壮大なストーリー展開と圧倒的な画力で読者を魅了している原作を、5年以上もの歳月をかけてアニメーションとして描きだした。五十嵐は「原作に引っ張られず、アニメーション映画としての魅力を出すためだったら、どんどん変えていただいて構いません」と全幅の信頼と共に映画化を任せたそうだが、「結果、原作をものすごく大切にしていただいたものになっていた。うれしかったですね」と柔らかな笑顔を見せる。自然と生命を描く天才、五十嵐大介を驚かせた映画『海獣の子供』のシーンとは?そして、作品を生みだす原点までをたっぷりと語ってもらった。■ 「STUDIO4℃さんの技量を発揮できるような形で、作ってほしい」本作は、自然世界への畏敬を下地に、自分の気持ちを言葉にするのが苦手な琉花(芦田愛菜)と、ジュゴンに育てられた不思議な少年、海(石橋陽彩)とその兄の空(浦上晟周)のひと夏の出会いを描く海洋冒険ミステリー。原作は、独特の線画や繊細な描写も魅力だが、映画化に際しては「『鉄コン筋クリート』などでSTUDIO4℃さんの作品クオリティもわかっていましたので、4℃さんの技量を思う存分、発揮できるような形で作ってほしいと思っていました。アニメーションは動きが魅力なので、その魅力を出すための工夫だったら、むしろ原作の絵を変えてくださいくらいの感じでした」と信頼して預けた。「5年以上かけて作ってくださいました。それは原作の連載と同じくらいの期間になるんです。スタジオを見学させていただくたびにどんどんクオリティが上がっていっていたので、これはすごいぞ、ヤバいかもしれないと思っていました」と期待を膨らませたが、完成作はその期待に応えたものだったという。「原作の絵も活かしてくださっていましたし、渡辺歩監督が細やかなところまで気を配って演出していた。僕はあまりキャラクターに感情移入するような演出をしないんですが、映画は琉花の心情に寄り添ったものになっていました。琉花の気持ちが伝わりやすい演出になって、そういう見せ方があるんだ!と、感心しました」と映画としての完成度に感嘆したという。■ 「クジラが琉花を飲み込むシーン。クジラのお腹の柔らかさまで描かれていた」アニメーション映画としてどのような作品が登場するのか原作ファンも興味津々のことと思うが、五十嵐がとりわけ驚いたのはどんなシーンだろうか。「クジラが飛びだすシーンや、琉花たちが海中を泳ぐシーンも迫力があって圧倒されましたが、実は何気ないシーンに驚かされることが多くて。例えば、クジラが琉花を飲み込んで、海に沈んでいくシーンがありますが、クジラのお腹は柔らかいので、それがふっくらとふくらみながら水面に押し付けられていくように描かれていました。そういう細やかさは、観ていてうれしくなりますね」。また本作をアニメーション化するうえで、もっとも大変だろうと思っていたのは「波打ち際のシーン」とのこと。「波が砕けるシーンや、砂浜で波が引いていく描写など、アニメーションできちんと波打ち際が描かれているのを、これまで見たことがない気がして。『海獣の子供』は波打ち際のシーンが多いので、大変だろうなと思っていたんです。ものすごく丁寧に描かれていて、本当にこだわってらっしゃるんだと感動しました」。後半の山場となる、宇宙や生命の神秘に触れる“誕生祭”のシーンには「勇気をもらった」と語る。「原作を描くうえでも、抽象的な表現なども少し検討していたんですが、そこまで踏み込んでしまうと漫画として成立しないかなあなど、いろいろと考えました。アニメーションの方では、原作より踏み込んだような表現になっているので、そこまでやったんだと勇気のようなものをもらいました。動きや光の表現も重要な要素だったので、アニメーションならではのシーンになっていましたね」。■ 「読者を深海にも宇宙の果てまでにも連れて行くことができるのが、漫画の醍醐味」ジュゴンに育てられた不思議な少年との出会いにはじまり、海の神秘を探りながら、壮大な結末へと観客を誘う本作。「ペン先から、読者を深海にも宇宙の果てまでにも連れて行くことができるのが、漫画の醍醐味。描いていても楽しい」と微笑む五十嵐だが、漫画「海獣の子供」のスタートは魚への興味だったという。「初めて沖縄に行った時に海の生物に興味を持って、『日本の海水魚』という図鑑を買ったんです。そうしたら魚がすごくおもしろくて。魚の落書きをしているなかで、生まれてきた作品です。またなんとなく宇宙と海が似ている、関係があるんだという表現にしたくて。あとは草野心平さんの『誕生祭』という詩が好きだったので、最後は『誕生祭』というモチーフを出したいなと。どのように広げていくかは、結構ノープランでした」と、「その時に感じたものをどんどん入れて、描いていけたらいいな」と思いながら、取り組んでいたという。「海獣の子供」だけでなく、自然をテーマに「人間は自然の一部なのだ」と感じさせる作品を意欲的に描いている。原点は「以前、埼玉県の浦和市に住んでいたんですが、調神社という神社があって。そこに入り浸っていた体験が原点になったのだと思います」と告白する。「街中なのに樹齢数百年という木がうっそうと茂っていて、そこだけ雰囲気が違う。風が強い日など、木漏れ日が揺れているなかにぼーっと立っていると、自分の皮膚と自然との境目がなくなっていく感覚がしたりして。森の中にも小さな生態系があって、小動物が食べたり、食べられたりを繰り返しているのも見ていました」。「こうやってインタビューをお受けしている時でも、以前に住んでいた岩手では熊たちがなにかを食べているかもしれないし、海の中にはクジラが泳いでいたりするわけで。昨年も鎌倉にシロナガスクジラが打ち上がったり、先日もザトウクジラが打ち上がったりと、すぐそばの海も壮大な世界へとつながっているんですよね。この世界で、いろいろな生き物が一緒に生きているんだと感じたり、少しでもそういったことに気が向くと、豊かな気持ちになれる気がします」と肌で感じた自然への想いを作品に込めている。クオリティの高い画力と壮大なストーリーを融合させ、ほぼひとりで漫画として完成させている五十嵐。アニメーション映画『海獣の子供』が誕生したことに「とても刺激を受けた」と語る。「プロフェッショナルな方が集まって、大変な労力をかけて、たくさんの力でひとつの作品をつくりあげていました。その工程にはとても刺激を受けました。そんなみなさんの姿を見られたことは、私のこれからの創作活動にもつながっていくと思います」。

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